「殿さま狸 著:箕輪 諒」について(4) [歴史小説]
殿さま狸 著:箕輪 諒」の自分的に最も印象深かった場面をご紹介したいと思います。
物語の中盤で徳川家康から「出藍の誉れ(青は藍より出でて藍より青し)」に例えられ、
阿波での治世を称えられている場面。
家康から「出藍の誉れでの最たるお方」であると、父の蜂須賀小六より蜂須賀家政の方が優れていると褒められると、
家政「出藍の誉れとはとんでもない」
家康「謙遜、遠慮は程々だと美徳じゃが、あまり執拗に重ねると、かえって相手の顔を潰すことになり申すぞ」
家康は、人の良い微笑を浮かべているが、底冷えするほど冷たい光を目の奥に浮かべている。
家政「非礼に思われたのであれば、謹んでお詫びします」
家政「されど、恐れながら、謙遜のつもりで申し上げたわけではありません。ただ、私は出藍の誉れという言葉そのものに疑問があるのです」
家康「ほう?(目を丸くしながら)」
家政「青は藍より出でて藍より青し、とは申しますが、藍から染み出した青色が上等で、素のままの藍花の紅色がそれより劣るというのは、人の身勝手な物差しに過ぎません。藍の花と藍染めは全く別の色であり、私と父についてもまた同様に考えます」
家政「ただ、私は自らを紅色に飾るより、阿波をどの国よりも濃く鮮やかな藍色に染め上げて見せたい。それのみを願い、非才ながら力を尽くさんと考えるばかりです」
家康「(芯から愉快そうに声をあげて笑った)・・・なるほどな。阿波守殿、若くして尊き志、ご立派なものよ。だが、貴殿の目指すその藍色の国は、収まらぬ限り果たせぬ夢想でもある」
そのために関白殿下への忠節をますます厚くし、この戦い(小田原の役)で身を惜しまず働くことだ。」と、家康はことさら念を押した。
その悪の強い、執拗な忠誠心の協調に家政は閉口したが、顔には出さず、「しかと心得ました」と生真面目に応じた。
(阿波の狸などど呼ばれる俺より、よほど狸かもしれないな)陣を後にしてから、家政はふとそんなことを思った。
◇コメント:
「小六は大将としての器量に優れていた。家政は、良き国主たらんと努めている。今やまるで違うものを目指している二人を、同じ物差しで測ることなどできない。」
と同著に記載されている通り、乱世の真っ最中と泰平に向かっている統一期を比較することは適当ではない。
それを家康も知らないはずもない。これを言っているのは豊臣全盛期において豊臣恩顧の武将を少しでも取り込んでおきたいという老獪さ、また秀吉股肱の家臣である小六を遠回しに時代遅れだと揶揄(今風に言えばディスっている)しているという性悪さが感じられる。
しかし、家政のこの切り替えしは痛快。筆者の反骨心が見えるようで子気味良い。
だが、さすがの東照大権現、家政にクギを刺し、立場をマウントすることを忘れない。ボス猿ならぬボス狸。
◆豆知識
著者の箕輪 諒さんは、著者紹介によると1987年生まれの栃木県出身とのこと。この若さでこの人物描写力と、物語の底に流れる軽妙な反骨心。今後とも注目の作家の一人です。
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物語の中盤で徳川家康から「出藍の誉れ(青は藍より出でて藍より青し)」に例えられ、
阿波での治世を称えられている場面。
家康から「出藍の誉れでの最たるお方」であると、父の蜂須賀小六より蜂須賀家政の方が優れていると褒められると、
家政「出藍の誉れとはとんでもない」
家康「謙遜、遠慮は程々だと美徳じゃが、あまり執拗に重ねると、かえって相手の顔を潰すことになり申すぞ」
家康は、人の良い微笑を浮かべているが、底冷えするほど冷たい光を目の奥に浮かべている。
家政「非礼に思われたのであれば、謹んでお詫びします」
家政「されど、恐れながら、謙遜のつもりで申し上げたわけではありません。ただ、私は出藍の誉れという言葉そのものに疑問があるのです」
家康「ほう?(目を丸くしながら)」
家政「青は藍より出でて藍より青し、とは申しますが、藍から染み出した青色が上等で、素のままの藍花の紅色がそれより劣るというのは、人の身勝手な物差しに過ぎません。藍の花と藍染めは全く別の色であり、私と父についてもまた同様に考えます」
家政「ただ、私は自らを紅色に飾るより、阿波をどの国よりも濃く鮮やかな藍色に染め上げて見せたい。それのみを願い、非才ながら力を尽くさんと考えるばかりです」
家康「(芯から愉快そうに声をあげて笑った)・・・なるほどな。阿波守殿、若くして尊き志、ご立派なものよ。だが、貴殿の目指すその藍色の国は、収まらぬ限り果たせぬ夢想でもある」
そのために関白殿下への忠節をますます厚くし、この戦い(小田原の役)で身を惜しまず働くことだ。」と、家康はことさら念を押した。
その悪の強い、執拗な忠誠心の協調に家政は閉口したが、顔には出さず、「しかと心得ました」と生真面目に応じた。
(阿波の狸などど呼ばれる俺より、よほど狸かもしれないな)陣を後にしてから、家政はふとそんなことを思った。
◇コメント:
「小六は大将としての器量に優れていた。家政は、良き国主たらんと努めている。今やまるで違うものを目指している二人を、同じ物差しで測ることなどできない。」
と同著に記載されている通り、乱世の真っ最中と泰平に向かっている統一期を比較することは適当ではない。
それを家康も知らないはずもない。これを言っているのは豊臣全盛期において豊臣恩顧の武将を少しでも取り込んでおきたいという老獪さ、また秀吉股肱の家臣である小六を遠回しに時代遅れだと揶揄(今風に言えばディスっている)しているという性悪さが感じられる。
しかし、家政のこの切り替えしは痛快。筆者の反骨心が見えるようで子気味良い。
だが、さすがの東照大権現、家政にクギを刺し、立場をマウントすることを忘れない。ボス猿ならぬボス狸。
◆豆知識
著者の箕輪 諒さんは、著者紹介によると1987年生まれの栃木県出身とのこと。この若さでこの人物描写力と、物語の底に流れる軽妙な反骨心。今後とも注目の作家の一人です。
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タグ:蜂須賀家政
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